今年8月のペロシ米下院議長訪台を境に台湾には情勢を危ぶむ内外の声が響き、不穏な空気が流れ込んだ。
「そう簡単には何も起こらない」、「今日が楽しければそれでいい」と普段は堂々構えている台湾人の中にも、有事の現実味の高まりを感じ、心境に変化が起きたという人は多かったのではないだろうか。中国の、アメリカの一挙一動に台湾に住む人々の心は揺れる。
私の夫もそのうちの一人で、「50代で早期退職して日本に移住したい」と、これまでに一度も言ったことのない将来のビジョンをペロシフィーバーが冷めたあたりで突然口にした。
夫の気持ちは当然理解できる。
私が夫の立場だったとしても同じことを言った可能性はあるだろう。
私自身については、基本的に真面目なことは何も考えていないので、日本移住についてもこれまで特に真剣に考えたことはなかった。
しかし夫の発言をきっかけに、夫婦での日本移住ってどんなものだろうかと、私も少しばかり想像をしてみた…
すると日本語ができない初老の無職外国人を連れて日本で暮らすとかめちゃめちゃ嫌だなという負の感情がまず最初に漠然と湧いたんですが(クズ)、本当に想像すればするほど夫婦での日本移住のハードルは高いと気付いた次第で。
経済面等々の問題は言うまでもなく、私としては何よりも圧倒的困難と思えるのがトイレの問題。
数年間の台湾生活を経、私はもう日本のトイレ事情を受け付けない身体になってしまったのだ。
日本のトイレが世界一きれいなのは、疑う余地のない事実だと思う。
しかしそれはトイレを掃除してる人がめちゃくちゃ頑張ってるからきれいなのであって、「清潔度の最高値・ポテンシャル」という話になれば残念ながら日本のトイレは王の座から転落すると私は思っている。
私の夫は、トイレの使い方が世界一汚い。(自分調べ)
どんな姿勢で排泄したらそんなことになるのだ?とその道の業界関係者から研究対象にされても何ら不思議ではないくらい、冗談抜きでマジで汚いのである。
当然注意はしたが、何度厳重注意すれど少しも改善しなかった。
ついにトイレに止まらず私の精神にまで汚染が及んだため、今では夫婦で別々のトイレを使って生活している。(すごい広い家に住んでいるとかではなく台湾は3LDK以上の物件にはトイレが2つ付いていることが普通)
わがままなようだが、もうこの生活スタイルは自分の中で絶対に譲れないものになっており、一生変えたくないと思っている。
で、夫は自分のトイレですら一切掃除しないため仕方なく私がたまに清掃に入り、それはそれで業者清掃並みの労力と心的疲労を伴う苦行となっている。
しかし私は耐えられている。
なぜなら台湾のトイレは日本のトイレと違って掃除が非常に楽だからである。
台湾の一般的な家庭のトイレはこのように風呂場、洗面所と繋がったユニットタイプとなっており、排水口を一つの空間で共有している。
つまりトイレ全体に水をかけて洗うことができる。
マジックリンや漂白剤を全面にスプレーしてシャワーで流せば終了、超お手軽に360度徹底的に清掃できてしまうのである…
もちろん床はビショビショになるが、ついでに床も掃除するので一石二鳥。
なんなら私は壁まで洗うので、清潔度に関しては本当に死角はない。
日本のトイレのずっと先を行っている、完全無欠の清潔過激派トイレの自負がある。
…え?濡れた便座や床はどうするんだって?
乾くのを待てばいいじゃないですか。
私も台湾に来たばかりの頃はまだ日本式トイレ信者であり、「え〜っ、トイレの床が濡れるのなんか嫌だ」と不慣れに思ったものだが、今ではこの台湾式の合理的な仕様に慣れた、というかむしろこれ以外考えられなくなってしまった。
便器を丸ごと洗えないなんてありえない…
床や壁を水洗いできないなんて人生観に反する…
と、日本に帰るたびに逆カルチャーショックに陥るまであり、数年の台湾生活は私を思想レベルで変化させたと実感する。
夫の激ヤバ汚トイレを日本式で掃除するなどもってのほかだし、自分のトイレだって2日に1回は丸洗いしたい。(病的)
しかし日本でユニットタイプのトイレとなると一人暮らし用物件とかに限られるだろうし、トイレが2つ付いている物件となると戸建住宅に限られるだろうし、自分たちに合った物件が簡単に見つかるとはとても思えない。
私と夫が日本に移住するにあたって住宅問題、というかトイレ問題は非常に高い壁となって立ちはだかっているのである。
もちろん、万が一そんなこと言っていられないような本当に差し迫った状況になれば、トイレは二の次で日本移住を検討するとは思う。
逆に言えば台湾がそのような緊迫した状況にならない限り、あるいは日本のトイレの様式に革命でも起こらない限りは私は生涯台湾に住み続けるのかなと思う。
台湾が、台湾のトイレが好きだからーー。